「現地採用」は今に始まったわけじゃない。1990年代の「香港就職ブーム」って知ってます?

香港就職ブーム?

海外就職という働き方が、それほど珍しいものではなくなってきた昨今。

数年前には「セカ就」という言葉がトレンドワードに選ばれ(2013年)、ちょっとしたブームの兆しが見えたこともありました。

実は今から20年以上前にも、メディアから海外就職が注目を浴びた時期があったんです。香港就職ブームです。

そこで今回は、「香港就職ブームとその背景」それから「現在の海外就職との比較」についてお話ししようと思います。

香港就職ブームとは?

香港就職ブームとはどのようなものだったのでしょうか。

簡単に言うと、「1990年代半ば頃に、主に現地採用として香港の日系企業に就職する日本人(特に女性)が急増した現象」です。

昭和堂発行の書籍『海外における日本人、日本のなかの外国人―グローバルな移民流動とエスノスケープ』には、以下のように記されています。

1994年頃、現地採用の日本人女性の存在が日本国内のメディアで注目を集めた

そしてその後数年間に渡り

海外で就職することについての記事やマニュアル情報の中で中心的な位置を占めた

つまり、単に現地採用者が増加しただけではなく、メディアで大々的に取り上げられ、海外就職というカテゴリーが確立するきっかけになった現象のようなんです。

調べてみると、確かに1994年頃に突然メディアに登場し出したことが分かります。

「香港×就職」「香港×働く」というキーワードを国立国会図書館検索システムで検索してみると、以下の出版物がヒットしました。

 

1994.7『香港に恋したキャリアガール : 実録・香港で働く日本人女性たち』

1994.9『香港で働く女性のためのガイドブック』

1994.10『「職」は香港に在り! : 香港での就職・生活ガイドブック』

1995.4『香港でOLしよう! : 海外で働く女の子たちの素顔』

1995.9『アジアで働く法 : 就職ホット情報 シンガポール・香港・台湾・北京』

1997.5『ワーキングウーマン : 香港で星をつかんだわたし』

 

1994年以前には、この手の出版物は見当たりませんでしたので、突如として現れた「ブーム」であったと考えて良さそうです。

また、1998年には、語学書でおなじみのアルクが海外就職のガイドブック(『海外で働く : 海外就職ガイドの決定版. 1999 アメリカ・アジア』等)を出版しています。

こういった海外就職ガイド情報も、調べる限り出版物としてはそれ以前には存在していなかったようです。

そしておよそ10年後の2003年、雑誌『読売ウイークリー』で『香港ブームから10年 海を渡った日本人OLたちは今』と題した記事が掲載されており、ブームは10年せずに終焉していたことが窺えます。

ブームの背景

香港就職ブームの背景

ブームの背景にはどのような要因があったのでしょうか?

先ほど紹介した『海外における日本人、日本のなかの外国人』に詳しく書かれていましたので、これを参考にまとめてみたいと思います。

①現地採用の需要の増加

一つは、現地採用の需要の増加です。

1970年代に活発化した日本企業の海外進出。1980年代にかけて香港にも多くの企業が進出し、駐在員が派遣されました。

駐在員による基盤の整備が進むと、多くの企業はやがて管理体制の現地化のフェーズに入っていきます。

ところが商習慣の違いなどから、現地スタッフではカバーしきれない業務が発生します。かといってコストの高い駐在員をさらに増やすのは難しい。そこで日本の商習慣を身につけている日本人現地採用者の需要が発生したわけです。

 

②人材紹介会社による仕掛け

現地採用の需要が発生するまでの流れは、現在の海外就職と同じですよね。

ただ香港就職ブームは、「日本人現地採用」という企業の需要に着目して、人材紹介会社が本格的なサポートに行った初めてのケースだったようなんです。

現地採用での就職を目指す場合、人材会社経由で転職活動するのは今でこそ当たり前ですが、この仕組みが確立したのはこの時期なんです。

なので人材紹介会社がブームを仕掛けたとも見て取れるわけです。

ちなみに、ブームの仕掛け人という方のインタビューを見つけましたのでご参考までに。

海外就職ブームの仕掛人 | 香港ポスト

 

③日本にやりがいを見いだせない

香港就職ブームの少し前の1980年代後半あたりから、社会人女性が語学留学に行く「OL留学ブーム」や「キャリアアップ留学」と呼ばれる現象が発生していました。

女性が活躍しづらい日本の職場にやりがいを感じられない等の理由から、多くの女性がキャリアアップやリフレッシュのためにアメリカやカナダ、オーストラリアなどの西洋の英語圏へ渡航しました。

こうした流れを受けて、日本を見切った女性たちのキャリアアップや海外滞在の手段として、香港就職が注目されたようです。

 

④欧米留学経験者の受け皿になった

海外就職を希望したとしても、欧米での就職はなかなか難しい。駐在員になるのも女性だとなおさら困難です。

そのため、英語が活かせ、かつ現地採用の需要が発生している香港が就職先としてクローズアップされたわけです。

つまり、英語留学経験者の受け皿として機能した側面があるようです。

 

⑤香港の社会状況

当時の香港の社会状況もブームの要因になっているようです。

香港就職ブームが起きたのは1994年頃から。当時の香港は、中国への返還3年後に控えていました。

返還されると、アジアの雑踏と西洋の街並が融合する魅力的な香港が、大きく変わってしまうかもしれない。変化する前に滞在しておきたいという気持ちが、渡航の理由の一つになっていた人も少なくないようです。

現在の海外就職との比較

現在の海外就職との比較

それでは、現在の海外就職の背景と、香港就職ブームの背景とを比較してみたいと思います。

今も昔も変わらない

お話しした通り、ブームの背景には大きく5つの要因が考えられました。

①現地採用の需要の増加

②人材紹介会社による仕掛け

③日本にやりがいを見いだせない

④欧米留学経験者の受け皿になった

⑤香港の社会状況

こうしてみると、現在の海外就職の要因とほとんど変わらないことが分かります。

ただ、「④欧米留学経験者の受け皿になった」という点は、現在のアジア就職にはあまり当てはまらなそうです。欧米留学経験者のセカンドチョイスではなく、最初からアジアを目指す人が多いように感じます。

また、「⑤香港の社会状況」に関しては返還前という特殊性があったのですが、現在のアジアで同様の状況の国は見当たりません。ただ、社会状況の大きな変化が見込まれているという点では、同じであるといえるでしょう。

現在のアジアで見込まれているのは「急速な経済成長」という変化です。

当然といえば当然ですが、海外就職は渡航先の社会状況の変化が動機の一つになるんですね。

 

現在ならではの要因

香港就職ブームの頃にはなかった、現在ならではの要因もいくつか考えられます。

❶当時に比べ外向きの圧力が強い

政府が「グローバル人材育成推進会議」を設置したのが2011年。「グローバル人材」という言葉が定着したのはここ5年くらいの話です。

香港就職ブームの頃は、ここまで「グローバルグローバル」と叫ばれるような時代背景では無かったでしょうから、海外就職の検討材料に「グローバル化」を挙げる人は、現在の方が圧倒的に多いと考えられます。

❷終身雇用制度の崩壊

1990年代前半の当時は、バブル崩壊後とはいえ、現在よりは終身雇用を前提として就職する人が多かったと思われます。

ところが、もはや多くの企業で終身雇用制度が崩壊していると見て取れる現在では、日本の企業に身を捧げるメリットは薄れてしまっています。「であればいっそ海外に可能性を求めたれ!」と考える人も出てくるでしょう。

近年新卒での現地採用者が増加しているのも、このことが関係していると考えられます。

また、40代以降の海外就職希望者が増えていることも、終身雇用制度の崩壊と関係していると思われます。つまり、転職を余儀なくされたサラリーマンの受け皿になっているということです。

男性が昇進しづらくなった

香港就職ブームの中心は女性でした。昇進しづらい日本の職場に見切りをつけた人が多かったようなのですが、今の日本では男性も昇進が難しくなっています。

日本の民間企業は、4054歳のミドル層が人員過剰であるため若年層の出世は以前に比べ困難になっています。

人事担当者に聞いた ミドル社員の処遇と活躍支援に関するアンケート | 日本の人事部

そのため、男性が活躍の場を海外へ求めるケースが増えていると考えられます。

❹非正規雇用の増加

1990年には881万人だった非正規雇用者数は、2014年には2倍の1962万人になっています。

最近の正規・非正規雇用の特徴 | 総務省統計局

こちらも上記❷❸と同様に、日本に見切りをつける理由になると考えられます。

さいごに

このように見てみると、現地採用の海外就職は今も昔も変わらず、日本で理想とされているキャリアモデル、つまり「昇進と長期勤務が可能な企業に正社員として勤める」という路線に乗れなかった人のための選択肢という側面があるんですよね。

非正規雇用の増加などからもわかるように、理想のキャリアモデルに乗るための切符の数はどんどん減り続けています。

それ故、男性や新卒の若者にまで海外就職という選択肢が広がってきているとも考えられます。

もちろん、海外就職は消極的な理由ばかりではないと思います。あえてグローバルな環境に打って出る人もいるでしょう。

いずれにせよ、日本社会全体が「正社員で長期勤務」というキャリアモデルを理想と捉えていること自体に、問題があるように感じます。

それでは!

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